袋小路に花は咲く

読書や映画の感想

帰ってきたヒトラー(2016 ドイツ)

現代にヒトラーが蘇ったら、ドイツ国民はどんな反応をするのか、ヒトラーは何をするのか、を描いたドイツ国内200万部超の大ヒット風刺小説の映画化。ヒトラーは時代が変われば必要とされないのか。過去にヒトラーがしたことを知っていたら二度目は訪れないのか。ヒトラーが居た時代と現在は何が進歩しているのか。風刺が効きまくってるコメディだけど、最後は思わずゾッとする。これは洗脳か、もしくは扇動か。ヒトラーについて詳しく知らなくても楽しめるので、事前情報無しでも観れる作品。

 

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1945年に自殺したアドルフ・ヒトラーは、自殺直前の記憶を失った状態でベルリンの空き地で目を覚ます。ヒトラーは戦争指導に戻るため総統地下壕に向かおうとするが、ベルリンの人々が自分を総統と認識していないことに疑問を抱く。ヒトラーは情報を得るために立ち寄ったキオスクで、自分がいる時代が2014年のベルリンであることに気付き衝撃を受け、空腹と疲労が重なりその場に倒れ込んでしまう。

倒れ込んだヒトラーは、キオスクの主人に介抱され目を覚ます。キオスクの主人はヒトラーを見て「ヒトラーそっくりの役者かコメディアン」だと思い込み、「店の常連の業界人に紹介するから、しばらく店で働いてくれないか」と頼み込んだ。地位も住処も失ったヒトラーは、生活の糧を得るため仕方なくキオスクで働き始めるが、数日後、キオスクの主人に紹介されたテレビ番組制作会社のゼンゼンブリンクとツヴァツキのスカウトを受け、コメディアンとしてトーク番組に出演することになる。また、専属秘書のヴェラ・クレマイヤーからパソコンの使い方を習い、「インターネッツ」や「ウィキペディア」を通して情報を得て現代に適応していく。

ヒトラートーク番組でトルコ人を罵倒する演説を打つと、その映像がYouTubeにアップロードされ、一躍人気コメディアンとなる。ヒトラーはその後、タブロイド紙との騒動や極右政党への突撃取材など社会の反響を巻き起こし、ドイツで最も有名なコメディアンとなる。ヒトラーは自分の人気を「ナチズムを支持する国民の声」と解釈し、再び政界に進出することを考え事務所探しを始める。しかし、ヒトラーは「ドイツを冒涜した」としてネオナチから襲撃を受け重傷を負う。襲撃事件が報道されると、社会はヒトラーを「ネオナチの暴力に立ち向かうヒーロー」として持てはやし、政界からは与野党問わず入党依頼が舞い込んで来た。ヒトラーは療養先の病院で社会の動きを見つつ、司会を任された新番組の構想と選挙運動の準備を進めていた。

 

 ヒトラーという独裁者、大虐殺者が現代にいたらどうなるか。世論とかもきっとこの作品と大差ないのかもしれない。過去にヒトラーが何をしたか、それをドイツ国民は知っているのに、結局ヒトラーを支持する人が多いのは皮肉が効きすぎている。ヒトラー本人だというのはにわかに信じがたいし、それを信じられなくて当然だけど、彼の持つ芯の通った思想には、たとえそれが本物だろうが偽物だろうが関係なく、皆心を動かされてしまう。それはヒトラーの持つ求心力だからこそ、成しえたこと。ヒトラーは時代を選ばず、それが正しいかどうかという自分の中での価値観に照らし合わせてるだけ。現代のドイツに不満を持っている人は結局ヒトラーに感化されてしまうのかもしれない。そういう希望の的としてヒトラーは現代でも支持される。

ヒトラーの悪い部分だけがクローズアップされてなんとなくしかヒトラーのことを理解していない現代人は多い。だから、この作品はヒトラーを肯定的に描いている部分も多く存在する。しかし、それはヒトラーという人格を正当に判断するためのものであり、すべてを含めてどう思うかは、作品内の民衆同様、ぼくたち観客でしかない。

犬を殺そうが、本当に支持していれば、そんなのは関係ない。ほとぼりが冷めた、というのは違う気がする。皆、昔のドイツのようにヒトラーのやることは否定していないことになる。

ヒトラーを見つけたツヴァツキは最終的に精神異常者扱いをされてしまい、もうヒトラーを疑うものはいない。それがヒトラーの形をした新たな指導者だろうと、本物のヒトラーだろうと、支持されてしまった以上どちらでも結末は変わらない。果たして現在の社会情勢にヒトラーはどう立ち向かっていくのか。彼の根本は変わっていないので、生前のようにまた大虐殺を繰り返すのか。少し気になるバッドエンドだった。フィクションだけど、風刺が効いてるわ、現在の社会問題と被っているわで、笑えるようで笑えないけど、途中途中しっかり笑えてしまうのがこの作品の怖いところ。ただし、笑えるのは時代錯誤的な言動であって、ヒトラーである必要性がある笑いは少ないかもしれない。

作品としての完成度はすごく高くて良い。だけど、素直に喜べないのは後ろ指を指されているからだろうか。(おしまい)