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袋小路に花は咲く

読書や映画の感想

ラースと、その彼女(2007 アメリカ)

冴えない主人公ラースに出来た彼女は、まさかのラブドールビアンカ」。ラースはビアンカを人間だと思い込んでいるけどラースのおかしさではなく、周囲の人々の優しさがこの作品の見どころ。街で会えばビアンカに挨拶したり、ボランティアやパーティに参加させたり、町中の大多数はビアンカを彼女としてしっかり扱ってくれる、そんな優しい世界でラースの成長を見守る作品。

 

 

 人におすすめするならどんな話か、ってのを前置きで軽く書いてみた。これからこのスタイルで行こうと思う。

アメリカの田舎町に住む26歳のラースは、心優しく町の皆に好かれている青年だが、とてもシャイで特に女性と話すのが大の苦手。兄のガスとその妻カリンが住む家の裏にある、ガレージを改装した部屋に一人で住んでおり、限られた人間関係しか築けないでいた。

ある日ラースは、ガスとカリンに、インターネットを通じて知り合った女性がいるので紹介すると伝える。ラースの事を気遣っていたガスとカリンは最初喜ぶが、車いすに乗った、元宣教師でブラジルとデンマークのハーフである女性ビアンカを紹介されて驚く。なぜならビアンカはアダルトサイトで販売されているリアルドールだったからだ。

 精神疾患になったと思われる主人公ラースを快方に向かわせるべく、街を挙げてラースの彼女の存在を認識していく。精神疾患には必ず原因があって、ラースがビアンカを必要とするのにも理由があるから、それが無くなるまで付き合ってあげることにする周囲の人々。戸惑いながらも日常にビアンカが組み込まれていく。LGBTとかそういうジェンダーですら阿鼻叫喚の現在にこれだけ優しく接してくれる人たちが、町が、あるだろうか?あくまでフィクションではあるけど、一人の優しい青年のためにみんなが協力してくれる様に少し胸が熱くなった。

主人公が好青年だからこそ、周りが付き合ってあげたいと思えるのかもしれない。気味悪がっても本人の前では決してそういった素振りを見せない兄夫婦や周りの人たちが優しく愛おしい。設定はぶっ飛んでるけど、内容はヒューマンドラマだし、設定だけで食わず嫌いせずに観てほしい作品。

兄嫁カリンのラースへのセリフが好き。

 

ビアンカが町になじんでいるのはなぜだと思う?

みんなラースが好きだからよ。車イスを押して、仕事へ連れてって、家まで送って、お風呂に入れ、服を着せて、朝起こして、夜は寝かせ、抱いて運んであげる。

ビアンカは赤ちゃんじゃない。大きな女性なの。大変な作業なのにみんなやってくれてる。全部ラースの為。どうでもいいなんて二度と言わないで。

 

 このセリフから物語は最終局面へ一気に加速する。主人公にとってビアンカはきっと逃避だったんだと思う。兄夫婦に子供が出来て、自分の母親は自分を生んですぐに亡くなってしまった。妊娠が死や恐怖をラースに与えたのかもしれない。その逃避としてラースは温もりが欲しくなったけど、彼女もいないラースが選んだのはラブドールビアンカだったんだろう。ラースの異常にはしっかりと理由があったんだよね。

同僚のマーゴに恋心を抱いて、ビアンカは要らなくなってしまったからか、口論や重症に陥ったり、果ては亡くなってしまったビアンカビアンカの生死もすべてラースのさじ加減ではあるけれど、未だラースは大人に成りきれていないのかもしれない。不要になったら捨てればいい、なんて少し年不相応ではないだろうか。最後はマーゴと付き合う流れっぽいけれど、彼女はビアンカについてこれからどういうスタンスでいくのか。昔の彼女?それとも居なかったことに?想像しかできないけれど、どちらもあまり良いとは言えない気がする。また何かあったらラースは逃げてしまうかもしれない。そういった意味でラースを根っこから好きになることはできなかったけれど、周囲の人々は大好きでこの世界が好きだ。馬鹿にするような設定から、心温まるストーリーが生まれていてぼくは好きでした。(おしまい)